公的不動産の利活用と公共施設マネジメント(PRE/FM)を応援します。

公共FMとまちづくり


 公共施設は、地域住民や企業の経済社会活動に必要なサービスを提供します。しかし公共施設の機能はそれだけにとどまりません。公共施設はそれ自身がまちづくりのための貴重な都市資源です。地域住民の多くが利用する庁舎やホール、図書館、公的病院などをどう配置するかによって人の流れが変わり、まちのありようも変化します。また人々の交流を生み出す公園や美術館、水族館、動物園、スタジアム等を整備する際の創造性や地域に残る歴史的建造物を保存・再生・活用する方法の巧拙は、まちの魅力を左右します。
 公共FM(Facirity Management)とまちづくりは表裏一体の関係にあります。

キーワードはまちづくり
 他方で2014年に国は地方公共団体に対して、人口減少と厳しい財政事情に対応していくために公共施設等総合管理計画の策定を要請しました。そして今、総合管理計画の下で策定された個別施設計画にしたがって公共施設群の再編統廃合を具体的に進める段階に至っています。
 しかしその実践の前には、総論賛成、各論反対という大きな壁が立ちはだかっています。この壁の前では、自治体の財政事情や人口動態を説明しても住民の理解を得るのは難しいのが実情です。少子高齢化と人口減少によって街が廃れていっているところに施設統廃合の話が加われば、住民の将来への不安はますます増大し、それが統廃合計画への反発を惹起するからです。
 その反発を和らげるには、公共施設の再編・統廃合計画と同時に、まちづくりと地域の課題に行政がどう向き合っていくかを提示することが必要です。住民に寄り添い、まちを思う姿勢を示すことが大切です。

PRE戦略とCRE戦略
 このように公共施設の再編統廃合を担う公共FMによってまちづくりを進めるには、公的不動産活用の視点が重要です。都市再生特別措置法も「市町村は、立地適正化計画の作成にあたっては、(中略)市町村の所有する土地又は建築物が有効に活用されることとなるよう努めるものとする」(同法第81条第13項)と規定しています。
 公的不動産の活用は、PRE(Public Real Estate)戦略とも呼ばれます。PRE戦略は、企業用不動産の合理的な所有と利用を推進するCRE(Corporate Real Estate)戦略を公的部門に展開したものです。CREやPREという英語表記を利用するのは、英米における企業用不動産や公的不動産の管理運営改革の考え方を日本に移入したものだからです。
 CRE戦略では、社宅や保養寮、運動場あるいは本社ビルや倉庫など、賃借等によって必要な量を必要な時に利用できるもの、すなわち自ら所有する必要性が乏しいノンコア資産を売却し、本業を効果的かつ効率的に営むために不可欠なコア資産だけに所有不動産を純化します。ノンコア資産を売却して得た資金は、競争力強化のための戦略投資や債務圧縮などに充当します。日本ではバブル崩壊後のリストラ策の一環として上場企業を含めて広くCRE戦略に取り組みました。

 CRE戦略に本格的に取り組む企業では、CREの管理を事業部門ごとの縦割りではなく、専門部署に委ねます。これによって事業部門の部分最適ではなく全社的視点からCREの全体最適を図ります。
 こうしたCRE戦略の考え方を公的不動産に応用したものがPRE戦略です。自治体の組織体制において従来の管財課を資産経営課や資産活用室などに改編する動きは、PRE戦略の方向性と合致しています。

FMとPRE~利便性と資産性~
 しかし公的不動産活用に取り組む自治体では、その活動をPRE戦略ではなく「ファシリティ・マネジメント(Facility Management)」ないしその略称である「FM」と呼ぶ方が多数派です。
 公益社団法人日本ファシリティ・マネジメント協会は、ファシリティ・マネジメントを「企業・団体等が保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画・管理・活用する経営活動」と定義しています。不動産という言葉こそ含まれていませんが、この定義はPRE戦略とほとんど変わりません。PREとFM 、どちらも保有不動産の全体最適を考えた合理的運営管理を追求する取り組みという点で両者はほぼ同じ概念です。
 しかし両者の間には、図のとおり、若干の違いがあります。それは、それぞれの取り組みの力点が、PREは不動産(Estate)の資産性の方に、FMは施設空間(Facility)の利便性の方に少し振れているという点です。

 両者の違いを中心市街地にあるJR駅前の市営バス操車場兼車庫を例に考えてみましょう。交通結節点となる駅前にバスの折り返しと停留所機能をもつ操車場があることは、高い利便性があり、資産性にも十分見合った利用と評価することができます。
 しかし車庫部分はどうでしょうか。繁華な駅前の土地は、地価も高く、まちにとって貴重な資源です。それだけに、その価値にふさわしい利用が求められます。ところが日中ほとんど使われることのない車庫部分は、運行関係者の通勤に便利という利点があっても、それだけでは資産性に見合った利用と評価できません。車庫として利用できる公有地は他にもあり、民有地を賃借することも可能です。車庫はFMの視点では容認されてもPREの視点では見直しが必要です。そして駅前の市有地のうち車庫として利用している部分について、もし資産価値に見合った利用を市が思いつかなければ、民間に売却あるいは賃貸することでその最有効使用を図ります。

 つまり公共FMを通じたまちづくりでは、施設の利便性の追求と公的不動産の資産性に見合った利用という2つの視点から検討することが必要です。そしてCRE戦略と同様、PREとして自治体が所有すべき施設か賃借等で自治体が住民のために利用できればよい施設かを柔軟に考える姿勢が大切です。

緑と水とオープンスペース 
 まちづくりにとって大切なのは公共建築物だけではありません。公園、街路、水辺空間(河川敷)は公共建築物を主要施設としない公共施設やインフラであり、いずれも都市アメニティとしての「緑と水とオープンスペース」を提供する大切なPREです。これらの充実は、まちづくりそのものであり、都市経済の拡大にもつながります。
 特に都市公園は、公的不動産の資産性を重視するPREの視点から、その資産価値に見合った利用を要求します。街路と河川敷は、通行と水路という基本機能があるため余程のアンバランスがない限り資産価値に見合った利用を議論する必要はありません。しかし都市公園は人々に利用されなければ、その存在価値がありません。
 都市公園はその性質上、もっとも規模の小さい街区公園でも標準面積2,500㎡の広さがあり、近隣公園ではその10倍の2万5,000㎡です。総合公園ともなれば10万㎡から50万㎡の広さとなり、その広さゆえに公園不動産の資産価値は巨大であり、とりわけ中心市街地や大都会にある都市公園の価値は大きく、その機会費用も膨大です。
 都市公園の機会費用は利用の多寡に比例しない固定費です。そして固定費型事業では、稼働率向上が最も効率的な経営改善策となります。つまりPREの視点では、FM以上に、できるだけ多くの人々が訪れるよう都市公園を整備し運営管理することを要求します。

Park-PFI
 近年、「Park-PFI」が日本各地で行われ、都市公園の魅力を増大し、利用者数の増加に貢献しています。これはPRE戦略に基づく要請にかなっています。
 Park-PFIは、都市公園法に基づく「公募設置管理制度」として実施されます。公募により選定された民間事業者に対して、収益施設(公募対象公園施設)の設置・管理を園路・広場等の公園施設(特定公園施設)の整備と一体的に行うことを条件に認めるものです。
 この制度によれば、都市公園における建蔽率制限を2%から最大12%に緩和することが可能になります。これによって路面店の面積をより大きくできるようになり商業施設としての経済性が高まります。また収益施設の建物階数を高くしなくとも必要な床面積が確保できるようになり、建物と公園の一体性も高まります。          
 さらに収益施設の設置管理許可期間についても10年から20年への延伸が可能になり、民間事業者の投下資本の回収性能が高まるので事業者募集時の競争性も拡大します。
 なおPark-PFIは、通称としてPFI(Private Finance Initiative)という呼称が付されていますが、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)に基づくPFI事業ではないことに留意が必要です。

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