今後数十年にわたって日本の人口は確実に減少します。人口減少社会で都市の持続可能性を確保しながら地域社会の活力と豊かさを維持・増進するには、「コンパクトシティ」がまちづくりにおける必至の方向性です。ではコンパクトシティとは具体的にはどのような都市像なのでしょうか。
コンパクトシティのめぐる2つのパターン~現実的モデルは多心型~
コンパクトシティというとヨーロッパの城郭都市をイメージする人も多いでしょう。城郭に囲まれた狭い市街地の中に人口と都市機能が凝縮されているという都市像です。上の写真はスイスの首都ベルンの旧市街です。城郭都市として中世に形成された旧市街全体が世界遺産に指定されています。動態保存された中層建築物が連担し、石畳の街路をLRTや連接バスが運行されて多くのビジネス客や観光客で賑う姿は、コンパクトシティの理想像を示しているように見えるかもしれません。
しかし実際には現在の高度で多様化した市民生活のニーズに応えるには城郭内の広さでは足りず、下の写真のように、城郭外のエリアに新市街地を形成して高層住宅や戸建て住宅、大型ショッピングセンター等を建築し、それらと公共交通や高速道路を接続することで全体として十全の都市機能を備えています。つまり、ひとつの狭い中心核に都市機能のすべてを集中させる「単心型(モノセントリック)」のコンパクトシティモデルは現実的ではありません。
「歩いて行ける範囲に何でもある」ことは中世では可能でした。しかし「何でも」に含まれるサービスや商品の数が数十倍、数百倍に拡大し、その質に対する要求水準も高度化した現代では、それらを「歩いて行ける範囲」に収めることは不可能です。仮に物理的に収められたとしても、その人口(商圏)に基づく需要だけで採算をとることはできないからです。
したがってコンパクトシティの現実的モデルは「多心型(ポリセントリック・モデル)」です。山・川・海等の地形的条件や歴史的に蓄積された社会的条件から複数に分散した中心拠点に、できるだけ多くの人口と都市機能を集めて、それらを公共交通でつなぐことで全体として集約的な都市構造の実現を目指します。これを国土交通省は「コンパクト・プラス・ネットワーク」という言葉で表現しています。
コンパクトシティは都市圏で考える
他方で、まちづくりで大きな責任を担う市町村の首長や職員は、自分の行政区域だけでコンパクトシティを考えがちです。しかし本来、コンパクトシティは都市圏で考える必要があります。
住民のニーズが高度化・多様化し、その行動範囲も広域化している状況を考えれば、中核市未満の規模の都市がその行政区域を単位としてコンパクトシティ政策を考えても必要な都市機能を充足することは困難です。したがって自己完結できる規模の人口を含む都市圏の市町村が連携・協同して多心型コンパクトシティ構想を共有する必要があります。そして必要な都市機能を各市町村が役割分担・機能分担して提供するのが理想です。国も定住自立圏構想や地方中枢拠点都市圏構想によって、自治体間の連携・分担を推奨しています。
とはいえ現実には都市圏単位のコンパクトシティ構想は首長(市区町村長)の選挙区(行政区域)を超えるため、政治的に困難な面があります。しかし廃棄物処理施設や火葬場の整備・運営では一部事務組合を通じて近隣市町村が協同する例が数多くあります。コンパクトシティ構想の共有は無理でも、大型ホールや運動施設、美術館、科学館、温浴施設などの整備・建替えを一部事務組合によって実施すれば、都市圏単位のコンパクトシティの芽を育むことができます。
多機能複合化
コンパクシティ化の手段として都市再生特別措置法の立地適正化計画があります。そこでは居住誘導区域と都市機能誘導区域を設けることで、中心拠点地区に人口と都市機能を誘導します。
しかしどちらも強制力がないので、誘導区域外の市街化区域において住宅や商業・業務施設の開発を禁じることはできません。このため相対的に地価が安いことや郊外にある工場等へのマイカー通勤に便利であることなどの理由から、立地適正化計画の意図とは裏腹に居住誘導区域外の市街化区域の人口が増加し、居住誘導区域内の人口が減少している自治体も少なくありません。
強制的方法によらないで中心核に人や都市施設を集めるには、誘因となる中心施設が重要です。多くの人々が訪れる鉄道駅や総合病院、大規模商業施設はその代表ですが、多機能複合化によって整備された複合公共施設もコミュニティセンターとして非常に重要な役割を担う中心施設です。また多機能複合化は、財政難と人口減少のもとで、公共施設の整備や運営・維持管理にかかるコストを合理化する手段でもあります。
多機能複合化のメリットとそのメリットが生じる理由をまとめると以下のとおりです。
①と②は、コストの合理化であり、いわゆる規模の経済の一種である「範囲の経済」を実現するものです。③④⑤は、目的や用途が異なる施設を組み合わせることで生じるメリットやシナジー効果です。⑥は、公共施設の集約化が公共交通路線の合理化を促し、それが運行頻度の増加につながる可能性です。
当然のことですが、多機能複合化によって公共施設の再編・統廃合を進める際には、立地適正化計画と整合しなければなりません。両者が整合することで自律的なコンパクトシティ化が促されます。反対に、もし居住誘導区域や都市機能誘導区域の外において新たなコミュニティ施設の整備が行われれば、もはやコンパクトシティ政策を本気に受け止める人はいなくなるでしょう。